科目名[英文名] | |||||
量子化学Ⅱ [Quantum ChemistryⅡ] | |||||
区分 | 工学部専門科目等 | 選択必修 | 単位数 | 2 | |
対象学科等 | 対象年次 | 2~4 | 開講時期 | 3学期 | |
授業形態 | 3学期 | 時間割番号 | 022317 | ||
責任教員 [ローマ字表記] | |||||
尾﨑 弘行 [OZAKI Hiroyuki] | |||||
所属 | 工学部 | 研究室 | メールアドレス |
概要 |
専門基礎科目物理化学に区分され、選択必修科目である。 無機化学Ⅰでは天下り式に扱われがちであった原子構造や化学結合について、量子論的背景を解説する。量子化学Ⅰの内容を引き継いでミクロの世界の法則に頭を慣らしていき、原子のなかでの電子の振る舞いを学ぶ。さらに量子論を化学の興味の対象となる分子に応用する方法を解説するが、その際導入される重要な近似概念「分子軌道」を理解するとともにその有用性を学ぶ。 |
到達基準 |
第 1 部 数式の力を借りて電子の描像の把握し、軌道近似の意味と意義を理解できる。 原子中の電子のエネルギーは軌道エネルギーだけでは決まらず、電子の様々な相互作用の影響を受けることを理解できる。 第 2 部 原子に対して展開した軌道近似を分子に拡張し、分子の本質的な性質を議論できる。 本科目のディプロマ・ポリシーの観点: 履修案内のカリキュラムマップを参照のこと。 |
授業内容 |
第 1 部 原子構造と原子スペクトル (テキスト 9 章) 第 1 回 水素原子のスペクトルについて復習後、これまでブラックボックスとして扱われてきた水素類似原子のシュレーディンガー方程式を 3 回の授業で丁寧に解いてみる: (1) 原子核に対する電子の相対運動と原子全体の運動を分離する。 第 2 回 (2) 原子核に対する電子の相対運動の方程式を変数分離して動径方程式を得る; (3) 動径方程式をラゲールの陪方程式に変形する; (4) ラゲールの陪方程式の解 (ラゲールの陪多項式) を求める。 第 3 回 (5) 動径関数を規格化する; (6) (4) の過程で量子化されていたエネルギーを求める; (7) 動径関数の一般式を紹介し、ここに球面調和関数をかけて原子軌道 (AO) の一般式を得る。AO の実関数化について復習する。 第 4 回 AO の図示について復習する。量子力学の原理に基づき、いろいろな AO に収容された電子の原子核からの距離の平均値を算出し、動径分布関数の極大を与える距離と比べる。最後にイオン化エネルギーと分光学的遷移について説明する。 第 5 回 多電子原子のシュレーディンガー方程式は解析的には解けない現実を認識し、軌道近似を導入する。ヘリウム原子を例に取り電子の交換に関する波動関数の反対称性とパウリの原理を説明し、2s 電子と 2p 電子が内殻へ浸透する度合と原子核からのクーロン引力を遮蔽される度合の差異からリチウム原子の電子配置を示す。構成原理について復習後、フントの最大多重度の規則とスピン相関を説明する。最後につじつまの合う場 (SCF) の方法の基本的考え方に言及する。 第 6 回 電子間の相互作用が多電子原子のエネルギーを複雑にする事情を論ずる。最初にヘリウムの準安定励起状態を取り上げ、1 重項状態と 3 重項状態があることを説明する。次に、ナトリウム原子のスペクトルの D 線が 2 重線になる原因を、スピン-軌道相互作用により説明する。すなわち、磁気モーメントについて復習し、角運動量の合成のルールについて簡単に説明した後、ナトリウムの基底状態に対して全角運動量の値が 1 通りしかなく、励起状態に対しては 2 通りあることを示す。 第 7 回 スピン-軌道相互作用が小さい場合、まずこれを無視して全軌道角運動量量子数 L と全スピン角運動量量子数 S を用いて電子状態を分類する。次にスピン-軌道相互作用を考慮することにより、各状態 (LS 項) を、全角運動量量子数 J の相違により分裂させ、LS 項の記号に J の値を添えて状態を表すことを学ぶ (ラッセル-ソンダースカップリング方式)。 第 8 回 前回学んだルールに従って、いろいろな電子配置に対する項の記号を求めてみる。複数の項が生ずる場合の最安定項、重原子に対して適用される j-j カップリング方式、原子スペクトルの選択律にも言及する。時間が許せば、第 2 部初回 (第 10 回) の導入部に入る。 第 9 回 中間試験を行う。ただし、諸般の事情により第 6 - 8 回に中間試験を行う場合もある。範囲は試験の前の回までに扱った内容である。 第 2 部 分子の電子構造 (テキスト 10 章) 第 10 回 ボルン-オッペンハイマー近似で水素分子イオンのシュレーディンガー方程式を扱う。数値計算による解について紹介後、より実用的な AO の線形結合 (LCAO) 近似のもとで、変分原理を用いて分子軌道 (MO) を求める。結論だけは既知のはずであるが、MO のエネルギーと波動関数が導出される過程を理解することを求める。 第 11 回 前回の議論を修正すると、2 つの原子の任意の AO 間の相互作用により生ずる MO の話に拡張できる。無機化学Ⅰで紹介した軌道エネルギーの変化のルールを証明するだけでなく、各 AO がどういう割合と位相で混合して MO ができるかを示す。さらに、一方の原子の 2 つの AO と他方の原子の 1 つの AO が相互作用して MO が生ずる場合についても簡単に触れる。 第 12 回 無機化学Ⅰで学んだ第 2 周期の等核 2 原子分子の MO のエネルギーと波動関数、命名法、結合エネルギー、磁性等について復習した後、懸案となっていた、窒素と酸素の間で σ MO と π MO のエネルギーの高低が逆転する理由について考察する。次に、原子に対して LS 項を考えたのと同様に、分子に対しても電子状態を分類するための項の記号があることを説明する。 第 13 回 第 11・12 回の議論を多原子分子に拡張する。xy 平面に置いたブタジエンの C2pz AO を基底関数にとりヒュッケル近似を採用して永年方程式が得られる過程、ならびに π MO のエネルギーと波動関数が求められる過程を丁寧に説明する。全 π 電子エネルギーと非局在化エネルギーを求めその意味を考える。 第 14 回 前回に引き続き π 電子系を扱う。π 電子密度、π 結合次数、イオン化エネルギー、π* ← π 遷移のエネルギー等を算出する。s AO または p AO から成る σ 電子系に対しても、ヒュッケル近似が採用される例を示す。 第 15 回 本講義に接続する「構造化学」の準備を兼ねて、分子を適切な部分構造 (パーツ) に分割し、各パーツの MO から分子全体の MO を組み立てる方法を説明する。1 次元無限鎖に生成するバンドについても言及する。 |
履修条件・関連項目 |
非編入生に対しては、無機化学Ⅰと量子化学Ⅰの単位を取得済みか、期末試験 (無機化学Ⅰは 2018 年度、量子化学Ⅰは 2019 年度) を受けたこと (特別な事情がある場合は事前に相談のこと)。 授業時間に加え、本学の標準時間に準ずる予習と復習を行うこと。 |
テキスト・教科書 |
「アトキンス物理化学 (上)」第 10 版 (東京化学同人) |
参考書 |
適宜プリントを配布する。 |
成績評価の方法 |
期末試験 (45 %) + 中間試験 (45 %) + 平常点 (随時行う演習、任意レポート) (10 %) |
教員から一言 |
物質の構造や性質を原子・分子レベルで解明するこの分野の素養は、諸君に不可欠である。まやかしを極力避けて理解するには、多少込み入った数式が必要だが、食わず嫌いにはならぬよう希望する。数式を全部フォローできればそれは大変結構。しかし結果の物理的・化学的意味を吟味することを忘れないでいただきたい。 講義における受講生諸君の理解度や中間試験の結果によっては、各事項を再度説明したり割愛したりすることがあるため、【授業内容】に記載した予定とは異なる進行状況になる可能性がある。 |
キーワード |
シュレーディンガー方程式 波動関数とエネルギー 原子軌道 分子軌道 変分原理 |
オフィスアワー |
水曜日 (講義日) 17:30 - 18:30 |
備考1 |
備考2 |
参照ホームページ |
開講言語 |
語学学習科目 |
更新日付 |
2019/03/13 18:23:53 |