科目名[英文名] | |||||
構造化学 [Structural Chemistry] | |||||
区分 | 工学部専門科目等 | 選択必修 | 単位数 | 2 | |
対象学科等 | 対象年次 | 3~4 | 開講時期 | 1学期 | |
授業形態 | 1学期 | 時間割番号 | 023301 | ||
責任教員 [ローマ字表記] | |||||
尾﨑 弘行 [OZAKI Hiroyuki] | |||||
所属 | 工学部 | 研究室 | メールアドレス |
概要 |
有機材料化学専門科目 1 に区分され、選択必修科目である。 無機化学 I、量子化学 I・II で学んだことに基づき、以下の内容の微視的物理化学を論ずる。 群論と呼ばれる数学の基礎的な素養があれば、込み入った計算を行うことなく分子の性質を議論できる場合があることを示す。また、変分法とともに重要な近似法である摂動法を用いて時間に依存するシュレーディンガー方程式を解き、回転・振動・電子遷移に基づくスペクトルの解釈の基礎となる式を導いたうえで、分子の詳細な構造 (例えば、対称性、結合長、軌道エネルギー、結合の性質等) を調べる方法を紹介する。 |
到達基準 |
以下のことが可能になること。 (1) 分子をその対称性に基づいて分類し、(a) 軌道相互作用や分光学的遷移などを論ずるときに現れる積分がゼロになる場合を即断する; (b) 多原子分子の MO を対称性適合線形結合を利用して組み立てる; (c) 基準振動の対称種を見分け、どのモードが赤外活性かあるいはラマン活性か判断する。 (2) 摂動法の考え方と遷移モーメントの式の導出過程を把握する。 (3) 各種分光法の理論的背景を理解し、スペクトルから分子の幾何・電子構造の情報を得る。 本科目のディプロマ・ポリシーの観点: 履修案内のカリキュラムマップを参照のこと。 |
授業内容 |
第 1 部 群論 (第 1 - 6 回) テキスト上巻 12 章 第 1 回 化学に群論を適用する意義を述べた後、立体図形を用いて対称要素、対称操作、点群の意味について説明する。次にこれまでの授業で扱われた分子 (あるいはイオン) のうち対称性の低いものを例に挙げて、対称要素・操作の種類と数を検討し、各分子が属する点群を説明する。 第 2 回 第 1 回より対称性の高い分子が属する点群の種類と特徴を示す。受講者には、本講義で新たに学んだことに加え、各自が蓄えてきた知見を総動員して、様々な分子の点群決定を試みることを求める。 第 3 回 群を数学的に定義した後、対称操作を行列で表し、連続する対称操作を行列のかけ算で表す。行列表示の対角要素の和が対称操作の特性を反映することを知るとともに、表示、表現、トレース、指標、類など独特の用語の意味を理解し、言い回しに慣れることが大切である。 第 4 回 ブロック対角形の行列表示から可約表現と既約表現の話に入る。各群の既約表現をまとめた指標表が提供する情報を説明し、これを用いて可約表現を既約表現の直和に簡約してみる。また、関数や回転が張る既約表現を見出す。 第 5 回 指標表を利用して関数の積の積分がゼロになるか判定する。実例として、簡単な分子のある MO の電子が別の MO への電気双極子遷移を起こし得るか検討する (検討の基礎となる式の導出は第 9 回に行う)。また、射影演算子を導入し、対称性適合線形結合 (SALC) をつくる (無機化学Ⅰの教科書の 3 章に説明抜きで掲載されていた波動関数の絵の意味を明らかにする)。 第 6 回 様々な XYn 型分子に対して作成した Yn の SALC にこれと同じ既約表現を張る (対称種に属する) X の AO を相互作用させて XYn の MO を構築する。環状の Yn 型分子の場合は SALC がそのまま MO となる。 第 2 部 摂動法 (第 7 - 9 回) テキスト上巻 9 章 9 ・10 節 第 7 回 分子と電磁波の相互作用を検討するには、時間に依存するシュレーディンガー方程式を摂動法により近似的に解く必要がある。この近似法を理解するための準備として、縮重のない定常状態に対して時間に依存しない摂動論を展開する。時間があれば、縮重のある場合にも言及する。 第 8 回 時間に依存する摂動論により分子が電磁波と相互作用して遷移が起こる確率の導出をめざす。この遷移確率は種々のスペクトルにおけるバンドの強度を左右する (ゼロのこともある) ので非常に重要である。込み入った式が続くため、事前に配布するプリントに沿って説明する。アウトラインを掴むことができればよい。 第 9 回 第 8 回に続いて、すでに第 5 回で利用した遷移モーメントの式を導出する。次に誘導吸収・放出と自然放出のアインシュタイン係数、状態の占有数について述べて第 3 部への準備を終える。後半の内容に関しては、テキスト 13 章 2 節も参照のこと。 第 3 部 分子分光学 (第 10 - 15 回) テキスト下巻 13 ・14 章 第 10 回 電磁波の種類と波長、振動数、波数の関係を復習し、どの電磁波を用いてどの遷移を観測でき、分子の構造と性質に関するいかなる知見が得られるか概観する。また、スペクトルのバンドの幅を決める因子について述べる。その後に、異核 2 原子分子に対してマイクロ波領域の純回転遷移を考える。選択律を導いて等間隔の線列からなるスペクトルが得られることを示し、線間隔から回転定数、慣性モーメント、平衡核間距離 (結合長) を求める。 第 11 回 多原子分子 (特に対称回転子) の純回転遷移について解説した後に、シュタルク効果とこれを利用する永久電気双極子モーメントの測定に言及する。次に純回転スペクトルを与えない等核 2 原子分子に対しても有効な、回転ラマンスペクトルについて述べる。レイリー散乱とラマン散乱、ストークス線と反ストークス線について説明後、選択律とスペクトルの様相を調べる。 第 12 回 異核 2 原子分子の振動―回転遷移について述べる。高分解能の振動回転スペクトル (赤外吸収スペクトル) の枝構造を調和近似のもとで解析し、線間隔から結合長を求める。等核 2 原子分子にも有効な、振動ラマンスペクトルの枝構造を調べる。 第 13 回 多原子分子の振動スペクトルで観測される振動のパターン (モード) である基準振動について、直線 3 原子分子を例にとり基準座標を導入しながら説明する。次に様々な分子の基準振動を対称性に基づいて分類し、各振動モードが張る既約表現を決定し、赤外活性モードの対称種と数を求める。振動ラマンスペクトルについても簡単に触れる。 第 14 回 電子遷移の特徴を純回転遷移や振動-回転遷移の場合と比較する。選択律について (主に 2 原子分子の場合で) 簡単に触れた後、紫外可視吸収スペクトルに現れる振動構造がフランク-コンドン因子に支配されることを示し、下の状態と上の状態のポテンシャルエネルギー曲線の形状と振動構造との関係を検討する。いろいろなタイプの電子遷移の特徴についても述べる。 第 15 回 電子励起状態のエネルギーが失われる過程を、放射減衰 (蛍光とりん光) を中心に説明する。蛍光スペクトルの振動構造を吸収スペクトルの振動構造と比較する。最後の話題は、試料に紫外線や X 線を照射したときに放出される電子の運動エネルギーを分析する光電子分光である。バンドの位置から MO のエネルギーが、バンドの形状 (振動構造) から MO の性格 (結合性) に関する情報が得られることを示し、化学分析への応用にも言及する。テキスト 11 章 4 節、25 章 2 節の記述も参照のこと。 |
履修条件・関連項目 |
非編入生に対しては、無機化学Ⅰの単位を取得し、かつ、量子化学Ⅰ・Ⅱの単位を取得済みか 2018 年度の期末試験を受けたこと (特別な事情のある場合は事前に相談のこと)。 授業時間に加え、本学の標準時間に準ずる予習と復習を行うこと。 |
テキスト・教科書 |
「アトキンス物理化学 (上・下)」第 10 版 (東京化学同人) |
参考書 |
多数あるので授業開始時に示すほか、適宜プリントを配布する。なお、群論に関しては、「アトキンス物理化学 (上)」の第 4 版に第 10 版よりも詳しい記述があるので適宜参照するとよい。 |
成績評価の方法 |
期末試験 70 % と平常点 (演習、レポート) 30 % で成績をつける。 |
教員から一言 |
重要な化学的事実を整理して理解するため、少しだけ "数学" を辛抱してほしい。法則や数式をただ暗記してもあまり意味がない。それらが導かれるプロセスを味わうことを勧める。その方がかえって将来応用が効くと思う。 講義における受講生諸君の理解度によっては、各事項を再度説明したり割愛したりすることがあるため、【授業内容】 に記載した予定とは異なる進行状況になる可能性がある。 |
キーワード |
分子の対称性 既約表現 摂動法 遷移確率 分光学 |
オフィスアワー |
金曜日 (講義日) 16:30 - 17:30 |
備考1 |
備考2 |
参照ホームページ |
開講言語 |
語学学習科目 |
更新日付 |
2019/03/13 18:25:47 |