科目名[英文名]
工業標準化戦略論   [Strategy and Management of Standardization]
区分 専門職学位課程科目  選択必修   単位数 2 
対象学科等   対象年次   開講時期 3学期 
授業形態 3学期  時間割番号 1060815
責任教員 [ローマ字表記]
尾澤 潤一   [OZAWA Jiyunichi]
所属 工学府 研究室   メールアドレス

概要
 技術系の教育において専門性を高めることは当然であるが、社会人となった後も変化の激しい環境や技術革新、ニーズの変化への対応を行っていくことが不可欠となっている。それと併せて、最近では、工業標準や知的財産等に関する技術的知見は技術プロパーにとどまらず、経営上のツールとしても重要な役割を果たしてきている。
 しかしながら、我が国は技術立国等の自画自賛の言葉に踊らされ、また、一部前例踏襲などの悪弊により、欧米や新興国における海外企業等の積極的な技術経営戦略に対し十分な対抗力が弱くなってきているのではないかという懸念がある。
 本講義では、工業標準化をキーワードとして取り上げ、標準化の意義と役割、具体的な事例紹介、標準化に関する主な機関の概要、国際的な動向についてわかりやすく説明するとともに、工業標準化戦略としての必要な要素やストーリーについて受講生とともに考えていきたい。また、将来、社会において工業標準化戦略についての考え方を経営に活かしていただければ幸いである。
到達基準
1. 標準の多様性やそれにかかわるアクターについて基本的な理解ができる
2. 海外の動向を踏まえた近年の標準化をめぐる状況変化を理解している
3. 事業戦略とし、国内の工業標準のみならず、海外も視野に置いたビジネス戦略をどのように構築していけばよいか考える契機となる
4. 受講生の専門分野をベースとして、標準化戦略についての一定の主張ができる
授業内容
 各回において講師が学生諸君の理解度を確認しながら講義を進めていきたいと考えております。そのため、講義中の質疑応答などによるコミュニケーションについて工夫していきます。また、あらかじめ提示した小課題について簡単なペーパー提出を求め、その結果を踏まえた講義の運営に努めます。さらに、後半において、いくつかのテーマについてグループディスカッションを行い、能動的に講義に参加できるよう工夫していきます。
講義は全15回(毎週金曜日6時限)で構成され、おおむね次のような内容を含みます。

1.講義オリエンテーション(10/4)
  講師紹介、講義の概要説明、学生からの質疑要望聴取
2.工業標準化イントロダクション(10/11)
  そのツールとアクター、意義について
3.我が国の工業標準化政策の流れ(10/18)
4.標準化事例① 材料分野1(レディミックストコンクリート等) (10/25)
5.標準化事例② 通信・電気(FELICA等) (11/1)
6.国際機関における工業標準化の動向 (11/8)
7.主要国(欧米、中国等)における工業標準化概論 (11/15)
8.標準化事例③ 鉄道 (11/22)
9.標準化事例④ 材料分野2(断熱材等) (11/29)
10.標準化を進める国内機関の現状と課題 (12/6)
  規格制定委員会、認証機関
11.工業以外の標準化事例 (12/13)
  JAS、安全規制、知財その他
12.ビジネス社会における、デジュール、デファクトスタンダードの意義 (12/20)
13.グループディスカッション (1/10)
  テーマを提示して議論してもらう。まとめる必要はなく、説得力のある議論を戦わせてほしい。
  (テーマ例)わが社の独自技術(仮想)
        デファクト化すべきか否か
14. 工業標準化戦略についての将来課題 (1/24)
15.まとめと小論文作成 (1/31)

講義内容については、その進捗状況、質疑の反映などにより、若干変更することがありますのでご了解ください。

履修条件・関連項目
 標準について基本的な知識があることが望ましいが必須ではないので、初めての方であっても安心して受講してください。
テキスト・教科書
 以下の参考書のいずれか一つを読むことを推奨します。詳細は講義において紹介します。また、関係するHP情報適宜紹介していきます。
参考書
1.世界市場を制覇する国際標準化戦略 原田節雄 著 東京電機大学出版局
  筆者はソニー出身。フェリカなど新技術の国際標準化で尽力した。その後、日本規格協会主幹や
IEC/SMB日本代表委員なども歴任。本書は、筆者の標準をめぐるビジネス経験等を記述した
良書。大部なので、関心のある部分だけ読むのもよいでしょう。
2.オープン&クローズド戦略 小川紘一 著 翔泳社
民間企業を経て、東大教授となった著者のまとめたこれからの企業戦略論。標準化を超えた内容(経営論、国際戦略、財務論など)を含むが、マクロ的な見方と個別事例が詳細に記されています。後半の事例検証が有益です。
3.国際標準の考え方 田中正躬 著 東京大学出版会
標準化戦略についていくつかの事例(直流・交流送電、灯油の標準化など)を挙げつつ、国際標準や適合性認証、国際組織の実態、標準教育の重要性を指摘した好書。筆者は経済産業省で標準化戦略に尽力後、ISO会長などを歴任した。
4.標準の哲学 橋本毅彦 著 講談社選書メチエ
東京大学先端科学技術研究センター教授の筆者が、科学史の専門家の立場から、標準に関する多くの事例(鍵、銃、ねじ、消火栓、QWERTY、直流交流送電、TCP/IP、ニューアプローチ)を紹介している。
5.HP情報等
講義の中で順次紹介していきます。 
成績評価の方法
講義に出席された皆さんの質疑応答など講義への貢献度に加え、提出ペーパー、グループディスカッションでの発言等を総合して評価いたします。最後に小論文の提出を予定しています。

本年度成績評価基準は次の通りです。(全学共通)
S(90-100):到達基準を超えた成果を上げている
A(80-89):到達基準を十分達成している
B(70-79):到達基準を達成している
C(60-69):到達基準をほぼ達成している
D(0-59):到達基準に達していない

教員から一言
 講師は長年経済産業省において、技術政策、研究開発、産業支援などに関わってきました。その間海外駐在などを含め多くの外国関係者との交流を経て日本とそれ以外の国との違いを実感してきたところです。その後、財団法人においてJIS認証事業、CASCO国内委員などの経験し、標準化の実態にも触れてきたところです。
 学生時代は理系の学生として、化学試薬や設計分野でのJIS規格くらいしか知識はありませんでしたが、社会人になりいろいろな分野、国内外の関係者との交流により、標準化の意義を徐々に体得してきております。このような自身の経験を踏まえると、標準化や標準化戦略は初学者が取り組みにくい分野であり、またその理解・習得には時間がかかります。そのためもあってか、社会での関心が必ずしも十分ではありません。また、日本が一定の市場規模を持つ島国であるために敢えて関わらない傾向があります。
しかし、最近では技術系経営者が関わる専門分野において、工業標準や知的財産という新たな課題の重要性が増してきております。先進国や新興国がこれらのビジネスツールを活用しマーケット戦略を進めているのは事実です。後塵を拝さないようこれから経営層になる若い人が意識していただきたいと考えております。
 講義では経験談を含めてなるべくわかりやすく、質疑を含めながら進めていきますので安心して受講してください。
工業標準化論を一事例として将来に向けて国際戦略を考えるきっかけになれば幸いです。講義は日本語で行いますが、必要に応じ、英語、フランス語、ロシア語、中国語などの資料をご覧いただく予定です。多くの方々の受講を期待しています。
キーワード
 工業標準化、JIS,JISC,JAS,ISO,IEC, ITU,WTOなど
オフィスアワー
 講義のある毎週金曜日の18時から20時ごろを基本としていますが、希望があれば、相談等の時間をつくりますので気軽に申し出てください。講義後のご質問や電子メールでのご相談も歓迎します。
備考1
 オリエンテーション(10月4日)時に、参加者の背景や、標準についての知識、講義への希望を伺います。今後の講義に反映していきますのでよろしくお願いします。
備考2
参照ホームページ
1. JISについて 経済産業省HP https://www.jisc.go.jp/  日本規格協会のHP https://www.jsa.or.jp/ 2.国際機関のHP ISOのHP https://www.iso.org/home.html IECのHP https://www.iec.ch/
開講言語
日本語
語学学習科目
更新日付
2019/09/25 12:11:24